カビの知識

カビ調査の落下菌法と浮遊菌法はどう違う?科学的根拠にもとづく正しい選び方

カビ調査の落下菌法と浮遊菌法はどう違う?科学的根拠にもとづく正しい選び方

住宅のカビ汚染は、居住者の健康被害(アレルギーや真菌症)だけでなく、建物の耐久性や資産価値にも直結する問題です。その汚染度を科学的に評価するために行われるのが微生物汚染調査ですが、ここで「どのサンプリング手法を選ぶか」によって、得られる結論の信頼性は大きく変わります。

この記事では、現場で広く使われる落下菌法と、精密診断に必須の浮遊菌法について、日本建築学会(AIJES)の指針をふまえながら、その科学的な違いを解説します。

落下菌検査(パッシブ法)の仕組みと限界

どんな手法か

落下菌検査は、重力による自然沈降を利用したサンプリング手法です。『3Mペトリフィルム YMプレート』などのゲル化した培地を室内の測定箇所で約15分間開放し、培地面に落ちて付着した微生物を捕集します。手軽でコストが低く、広い範囲を簡易的に調べるのに向いています。

3つの技術的限界

一方で、専門的に見ると落下菌検査には次の3つの限界があります。

  • 微小粒子を取りこぼす:カビの胞子は極めて軽く、空気抵抗の影響を受けて室内を漂い続けます。短時間の開放では、こうした微小粒子の多くは培地に到達せず、空間の本当の汚染濃度を過小評価してしまうおそれがあります。
  • 気流に左右される:室内にはエアコンの対流や人の動きによる気流が常にあります。落下菌数はこの気流条件に容易に影響されるため、同じ空間でも測定した場所や時間によって結果が大きくブレます。
  • 定量的な妥当性が低い:落下菌法で分かるのは「単位面積あたりの付着量」です。しかし人が呼吸で吸い込むのは「空気の体積あたりの菌数」であり、付着量と吸入曝露量の相関は科学的に十分とは言えません。

浮遊菌検査(アクティブ法)の科学的な強み

どんな手法か

浮遊菌検査は、『エアサンプラー IDC-500B』などの精密機器で一定量の空気を強制的に吸引し、その空気を培地に直接衝突させて微生物を捕らえる「衝突法」の手法です。

体積あたりで測れる=定量性が高い

この手法の最大の利点は、吸引した空気量(L や m³)を正確に制御できることです。これにより、AIJESが定める基準値と直接くらべられる空中浮遊菌濃度(CFU/m³)を算出できます。この定量的な確かさが、建築物衛生管理における信頼性の根幹になります。

微小な胞子も逃さない

重力の影響をほとんど受けない5μm以下の微小な胞子であっても、強制吸引による慣性衝突を使えば確実に捕捉できます。空中を漂い続けるリスクを見逃さない点で、住宅診断における技術的なメリットは非常に高いと言えます。

【比較表】落下菌法 vs 浮遊菌法

項目 落下菌法(パッシブ法) 浮遊菌法(アクティブ法)
捕集原理 重力による自然沈降 強制吸引による衝突
単位 コロニー数 / プレート(15分間開放) CFU / m³(体積あたり)
気流の影響 受けやすく、結果が不安定 影響を最小限に抑え、安定
定量性 低い(定性的・補助的な指標) 高い(学術的・法的根拠に耐える)
主な用途 簡易モニタリング、広域スクリーニング 精密診断、健康被害の原因究明
AIJESでの位置づけ 補助的手段(傾向の把握) 精密な空気環境評価に必須

診断とモニタリング、2つの役割分担

微生物汚染調査の専門家は、この2つの手法を目的と深度に応じて厳格に使い分けます。

  • 精密診断には浮遊菌法:初回調査、アレルギー等の原因究明、除菌・清掃後の効果検証など、学術的・法的根拠にもとづく「安全宣言」が必要な場面で必須です。
  • 簡易モニタリングには落下菌法:汚染箇所を特定したあとの定点的な経過観察や、大規模物件の広範囲スクリーニングなど、コスト効率を重視した補助的手段として活用します。

言い換えれば、浮遊菌検査による定量的な評価なしに、住宅の微生物学的な安全性を宣言することは、科学的な妥当性の観点から不可能だと言えます。

菌数を数えるだけでは足りない ── 同定の重要性

捕集したあとの分析では、単に菌数を数えるだけでなく、菌種を特定する「同定」が欠かせません。まずは培地上の見た目で一次スクリーニングを行います。

  • 酵母:小型でコロニーの縁が明確。淡赤褐色から青緑色を呈し、中心に「芯(色の濃い中心点)」が見られないのが一般的です。
  • カビ:大型で多彩な色調を示し、縁がぼやけて不明確。中心に芯が見られ、菌糸の発達が確認できます。

現場のプロが使う3つの知見

  1. 菌が多すぎて数えられないとき:コロニー数が150を超えて測定困難(TNTC)に近い状態になった場合は、1cm²あたりの平均コロニー数を数え、それに培地の接種面積(約30cm²)を乗じてプレート全体の総数を推定します。
  2. 偽陽性を見分ける:キッチンなどでは、食品由来の生体フォスファターゼが指示薬と反応し、菌がない場所に青い微小点(偽陽性)を生じることがあります。これらは不規則な形をしており、縁の明確な酵母とは区別できます。
  3. 最終判定は顕微鏡で:確実な同定には、40倍〜400倍の倍率での顕微鏡観察が必須です。釣菌したコロニーから枝分かれした菌糸体(Hyphae)の有無を確認することで、カビと酵母を確実に判別します。

まとめ:手法の選択は「信頼性」の選択

住宅の微生物汚染調査における手法選びは、単なるコストの比較ではなく、得られる情報の「信頼性」の選択です。落下菌法の限界と浮遊菌法の科学的優位性を正しく理解したうえで調査を組み立てることが、住まい手の健康と建物の資産価値を守る道につながります。専門技術にもとづく正確な評価こそが、安全な住環境への第一歩です。

監修者 世良秀雄

この記事の監修者

世良 秀雄株式会社せら 代表

MIST工法®開発者。創業30年・全国22拠点・年間施工3,000件以上の実績をもつカビ取りの専門家。

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