図書館でカビらしい跡を見つけたら|資料保存と建物調査を分けて相談する

図書館の本や書架にカビらしい跡があるときは、すぐに薬剤をかけたり、普段の清掃と同じようにこすったりせず、資料保存の担当者と施設管理の担当者へ共有してください。本の処置と、書庫の湿気や漏水への対応は、対象も必要な専門性も異なります。資料に使える方法を、建物向けの施工方法から決めることはできません。
この記事では、司書や施設の管理担当者が、相談前に整理できる情報を説明します。貴重書、古文書、劣化した紙、濡れている資料、広い範囲の被害は、一般的な本の手入れへ当てはめないでください。資料の洗浄や薬剤処理の手順を示す記事ではありません。利用者として気付いた場合は、その場で本を処置せず、職員へ場所を知らせるところまでにしましょう。
1 発見した場所と資料を記録し、担当へ共有する

最初に記録するのは、いつ、どの部屋の、どの棚や資料に変化が見られたかです。書架の番号、棚の高さ、窓や外壁との位置関係が分かると、後で施設担当者と同じ場所を確認できます。図書の管理番号を扱う場合は館内の記録に残し、利用者の貸出履歴や個人情報と一緒に外部へ送らないようにします。
白い付着物、黒い点、褐色の染み、においなど、見たことと推測は分けて書きます。色だけで菌の種類や現在の活動状態を決めることはできません。においだけで、資料が発生源なのか、壁や床、設備が関係しているのかを確定することもできません。顔を近づけて嗅ぐ、指で触る、紙をこすって確かめる確認は必要ありません。
写真は、書架全体の位置が分かるものと、無理なく撮れる範囲の状態を残します。見えにくいページを広げる、貼り付いた紙を剥がす、重い本を高い棚から急いで下ろすことは避けます。撮影のために資料を傷めてしまわないよう、まず現在の置かれ方を記録し、移動が必要かは担当者へ確認してください。
館内で誰へ報告するかを決めておくと、発見者が一人で処置を始めずに済みます。資料保存、施設管理、利用者対応の担当が別の場合は、連絡を受けた人が次の担当へつなぐ手順も確認します。通常の貸出へ戻してよいか、周囲の利用をどう扱うかは、施設の責任者が状況と専門家の助言を踏まえて判断する事項です。
国立国会図書館のカビ資料クリーニング案内は、少数の一般的な資料を対象とする事例であり、貴重資料や劣化が著しい資料への方法ではないと明記しています。また、専門業者への相談を基本に考えるよう案内しています。公開資料に手順があるからといって、その図書館の全資料へ適用できるとは解釈しないでください。
移動や隔離が必要な場合も、置き場所、搬送中に周囲へ広げない方法、資料の濡れや傷みへの対応を先に相談します。単に袋へ入れておけばよい、空いている部屋へ運べばよいと一律には決めません。誰がどの資料をどこへ移したか、まだ確認できていないものは何かを記録し、所在が分からなくなることを防ぎます。
| 記録する項目 | 区別すること |
|---|---|
| 場所・日時・範囲 | 観察した事実と原因の推測 |
| 資料の状態 | 一般資料・貴重資料・濡れや劣化 |
| 連絡と移動 | 担当者・移動先・未確認の範囲 |
2 一般図書と貴重資料で、処置を一律にしない

図書館の資料には、買い替えられる一般書、地域で一部しか残っていない記録、写真、地図、和装本などがあります。同じ紙に見えても、印刷や筆記の材料、装丁、接着、劣化の状態は異なります。建物の清掃に使える薬剤を本へ使えるとは限らず、一般図書で行った方法を古文書へそのまま移すこともできません。
相談前には、資料の種類、代替資料の有無、利用の頻度、保存方針を整理します。価値を値段だけで判断するのではなく、地域資料としての意味や、書き込み・装丁を含む現物を残す必要性も確認してください。購入し直せる資料でも、処分や交換は館内の規程に沿って判断し、発見した職員がその場で決めないようにします。
日本図書館協会の資料保存に関するQ&Aは、修理も資料へ負担を与える行為であり、資料の性質や価値に応じた必要最小限の対応を考えることを示しています。見た目を新品のように戻すことと、資料を利用・保存できる状態にすることは同じではありません。染みを完全に消すために処置を強める前に、保存の目的を確かめましょう。
紙が波打っている、ページが貼り付いている、表面がもろいなどの状態がある場合は、通常の乾いた本とは分けて伝えます。水で濡れた資料には時間に関わる判断もあるため、放置して様子を見るだけにせず、資料保存の専門家へ早めに連絡してください。ただし、自己流の加熱や乾燥、薬剤噴霧を始めるという意味ではありません。
本へ漂白剤を使う、表面を削る、強く払うといった行為は、このページから勧める処置ではありません。専門家が方法を選ぶときも、紙だけでなく文字、顔料、接着剤、表紙などへの影響を考える必要があります。「こすらない工法」という説明だけで、すべての資料を傷めず扱える証拠にはならない点に注意してください。
外部へ写真や資料情報を渡す際は、未公開資料、寄贈者情報、個人の記録が含まれていないか確認します。状態を相談するために必要な範囲の情報を選び、公開可能な施工事例と混同しないことも大切です。専門家への相談と、写真を広告やウェブサイトへ掲載する許可は、別々の手続きとして扱ってください。
| 資料の条件 | 相談前の確認 |
|---|---|
| 代替できる一般図書 | 館内の保存・交換方針 |
| 貴重資料や古文書 | 資料保存専門家の判断 |
| 濡れ・貼り付き・著しい劣化 | 無理に開かず状態を伝える |
3 温湿度の記録は、位置・時間・運転状況と一緒に読む

カビ対策では、資料の処置だけでなく、その後に置く環境を見直すことが必要です。日本図書館協会の環境管理の説明は、資料だけを処置しても、周辺の発生条件が残れば再び問題が起こり得ることを示しています。書架、壁、床、日常清掃、湿気のたまり方などを、施設の担当者と一緒に確認する視点を持ちましょう。
温湿度計の数値は、どこで、いつ測ったものかが分からないと比較しにくくなります。部屋の入口で一度読んだ値だけで、奥の書架や壁際の状態まで判断することはできません。測定位置と高さ、記録間隔、使用機器を残し、同じ条件で経過を追えるようにします。日付だけでなく、測定した時刻も必要です。
同協会の案内では、一時保管場所を利用する前に、複数の位置や高さで一定期間の温湿度を記録する考え方が紹介されています。ここで大切なのは、単一の数字を安全の合格点にすることではなく、場所や時間による違いを把握することです。資料の種類や施設条件を無視して、一定の湿度以下なら絶対に発生しないとは保証できません。
開館日と休館日、空調の運転中と停止後、雨が続いた期間など、運用の情報も記録へ添えます。湿度の変化と設備の運転時刻が重なっても、それだけで設備が原因と確定するわけではありません。施設担当者が設備の能力や運転方法を確認するための手掛かりとして、観測した事実を渡してください。
除湿機や空調設備の使い方を変更する場合は、排水、電源、点検、利用時間なども施設側で確認します。誰も確認しないまま連続運転することや、既存の換気設備を止めることを一律に勧めるものではありません。資料保存の希望と、建物設備の安全な運用を別々に整理し、実行可能な管理方法へ調整する必要があります。
清掃や環境改善の後も、同じ場所で記録と点検を続けます。写真の照明条件、温湿度計の位置、棚の配置が変わった場合は、その変更も記載してください。前と違う条件で測った数字を単純に並べて、施工の効果や原因の解消を断定しないことが、次の判断を誤らないための基本になります。
| 記録 | 一緒に残す条件 |
|---|---|
| 温湿度 | 位置・高さ・機器・時刻 |
| 設備運転 | 開館・休館・運転と停止 |
| 改善後の比較 | 測定条件や配置の変更 |
4 漏水や結露は、資料処置と別の確認として扱う

書架の近くに水染みがある、雨の後に床が濡れる、同じ壁際の資料だけに変化が出る場合は、建物や設備側の確認が必要かを相談します。資料の表面処置だけで水分の供給が止まるわけではありません。見えるカビらしい跡と、漏水・結露・清掃時の水分などの可能性を分けて、現場を確認する担当へ伝えてください。
水の侵入が続いている、天井材が下がっている、電気設備の近くが濡れているといった場合は、資料の写真を集めることよりも施設の安全対応を優先します。利用を制限する範囲や設備停止の判断は、管理責任者と専門業者が行います。職員が天井裏に入る、壁を開ける、配線のそばで測定することを求める記事ではありません。
含水率などの水分測定は、材料の状態を考えるための手掛かりです。測定器の方式、対象材料、測る位置、比較する乾いた部分などの条件を確認して結果を読みます。単独の値を見て菌の種類が分かるわけではなく、その数字だけで資料を戻してよい、建物全体が乾いたと判断するものでもありません。
赤外線カメラによる温度の違いも、水分そのものの写真ではありません。建物の形状や温度条件など、別の要因で違いが出る場合があります。調査を依頼するときは、何を疑ってどの方法を選ぶのか、他の確認とどう組み合わせるのかを聞きます。画像に色の違いがあることだけを、壁内のカビの証拠とは扱いません。
真菌検査は、採取した試料と方法に応じた情報を得るものです。US EPAの検査案内は、適切な採取計画と結果の解釈に専門性が必要であることを示しています。検査値だけで漏水箇所、施設全体の状態、利用者の健康への影響まで確定できるとは考えず、どの疑問を解くための検査かを先に確認してください。
建物の修理が終わった後も、資料を戻す条件は資料保存担当と共有する必要があります。修理箇所、乾燥や清掃を確認した範囲、確認できなかった場所、今後の点検項目を記録します。書架の配置や設備運用が変わるなら、その影響も含めて保管環境を見直し、元の場所へただ戻すだけにしないようにします。
| 確認方法 | 分かることと限界 |
|---|---|
| 写真・経過 | 位置や変化。原因確定ではない |
| 水分測定 | 材料・機器・位置を踏まえた手掛かり |
| 熱画像 | 表面温度の違い。水分やカビを直接示さない |
| 真菌検査 | 試料と方法に応じた情報。健康保証ではない |
5 資料保存の専門家と建物の施工業者の役割を分ける

相談先を選ぶ際は、資料そのものの保存処置と、書架・壁・床などの建物側の作業を分けて説明します。一社が窓口になる場合でも、どの担当が何を行い、どこから別の専門家へつなぐのかを確認してください。建物の施工実績があることと、貴重資料を扱う専門性があることは、同じ意味ではありません。
資料保存の専門家には、資料の材質と損傷、保存目的、処置による影響について相談します。施設側の業者には、漏水や設備の調査、建材の状態、清掃や補修の対象範囲について確認します。互いの作業が資料へ影響しないよう、搬出や保護の要否、作業順序、保管場所を共有することが重要です。
見積もりでは、対象となる資料や部屋、処置しないもの、調査と施工の区別を具体化します。追加の調査や部材交換が必要になった場合の連絡方法も確認してください。無料か有料かだけで業者の信頼性を判断せず、費用が発生する条件と、説明された範囲が文書に残るかを比較します。
薬剤を使う提案がある場合は、対象素材への適合性、周囲の資料や設備への影響、必要な保護、利用再開の条件を説明してもらいます。安全データの提示があっても、その製品をすべての紙や装丁に使えることを意味しません。「人体に安全」「根まで確実に除去」といった断定だけで、今回の対象に適した方法と判断しないでください。
資料や建物のカビが気になる場合は、カビバスターズへ写真と経過を伝えて相談できます。その際も、建物側の相談なのか、資料保存の専門家との連携が必要なのかを最初に確認してください。このページでは、貴重資料の処置を一律に引き受けられること、無料調査、料金や対応地域を保証する案内はしません。
館内で説明を共有するときは、検討中の案と決定した作業を区別します。見積もり段階の提案を、そのまま職員向けの清掃手順として配布しないでください。作業する人、立ち入れる範囲、資料へ触れてよい人、異常があった場合の連絡先を、実施前に施設の責任者が確認できる形へまとめます。
| 担当 | 確認したい範囲 |
|---|---|
| 資料保存専門家 | 資料の価値・材質・処置の影響 |
| 施設・設備担当 | 水分の原因・修理・運用 |
| 施工業者 | 対象素材・施工範囲・対象外・利用条件 |
| 施設責任者 | 担当間の調整と運営判断 |
6 利用再開と再点検の条件を、依頼前から確認する

作業が終わったときに何を確認するかは、依頼前から相談しておくと整理しやすくなります。見た目の変化だけでなく、水分の原因への対応、資料の状態、設備の運用、対象外の範囲を確認します。すべての痕跡が消えることや、将来まったく再発しないことを、当然の完了条件として約束させるのではありません。
施工前後の写真は、同じ場所と似た条件で撮影したものを比べます。撮影範囲に含まれていない書架や天井裏まで確認したとは扱わないでください。検査や測定を行った場合は、試料、位置、時刻、機器や方法、比較条件が分かる記録を受け取り、結果の限界も含めて説明を求めます。
資料の利用再開は、施設の運営判断と資料保存上の判断をすり合わせて決めます。薬剤を使用した場合の待機や確認事項は、製品と施工条件に従う必要があります。このページから一律に「施工後すぐ使える」と案内することはできません。利用を再開できない資料が残る場合の案内や代替手段も、館内で検討してください。
再点検では、以前の位置だけでなく、移動先の保管環境や、新しく湿気がたまりそうな場所も確認対象にします。頻度は施設の状況と専門家の助言に応じて決め、根拠なく年一回だけで十分とは決めません。雨、設備の故障、長い休館など、通常と違う出来事があったときの連絡方法も残します。
利用者や職員からにおい、汚れ、体調の心配が伝えられた場合は、それぞれを分けて受け付けます。施設の状況確認は必要ですが、体調の変化をその場で建物のカビのせいと診断しないでください。個人の健康情報は必要な担当だけで扱い、医療上の判断は医療機関へつなぐことになります。
図書館のカビ対策は、強い処置を一度行えば終わる仕事ではありません。資料の価値を守る判断、建物の水分への対応、設備の運用、記録と点検をつなげることが重要です。手に負えない状態を職員だけで処置しようとせず、まず対象と困りごとを整理し、資料保存と建物のそれぞれに適した専門家へ相談してください。
| 時点 | 残す記録 |
|---|---|
| 依頼前 | 対象・除外・確認方法・費用条件 |
| 作業後 | 確認範囲・未確認・資料の状態 |
| 利用再開 | 責任者の判断と使用条件 |
| 再点検 | 同じ位置の記録・異常時の連絡先 |
関連する確認は、漏水後に残るにおい、カビ検査・調査の役割と限界へ。
確認した一次資料
| 資料 | 確認した内容 |
|---|---|
| 国立国会図書館:カビが発生した資料をクリーニングする | 対象資料の限定、専門家相談、周辺環境管理 |
| 日本図書館協会資料保存委員会:資料保存に関するQ&A2 | 資料の価値に応じた保存、環境管理、複数位置の温湿度記録 |
| US EPA:Mold Testing or Sampling | 採取計画と検査結果の解釈には専門性が必要 |
| Protimeter:Using Moisture Meters and Thermal Imaging Cameras Together for Home Inspections | 水分計と熱画像の役割、材質・環境条件、温度差の限界 |
- 国立国会図書館:カビが発生した資料をクリーニングする
- 日本図書館協会資料保存委員会:資料保存に関するQ&A2
- US EPA:Mold Testing or Sampling
- Protimeter:Using Moisture Meters and Thermal Imaging Cameras Together for Home Inspections
確認日:2026年10月24日。資料の写真・図表は転載していません。資料の保存方針と施設の管理手順、専門家の個別判断を優先してください。

運営・編集情報
世良 秀雄株式会社せら 代表
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